与太郎の備忘録

大阪在住の20代組織設計建築士が訪れたものや思ったことを語る日記です。

【京アニ事件】法律の限界と課題【思うこと】

 

 

 

こんばんは。

今日はTwitterのトレンドをひとつピックアップしてお話ししたいと思います。

 

 

2019年7月18日、京都市伏見区にある京都アニメーション第一スタジオにて、男が侵入してガソリンを撒いた「京都アニメーション放火殺人事件

 

 

京アニ社員の69人が被害に遭い36人が死亡被疑者を含む34人が負傷した単独の殺人事件としては未曽有の殺人事件です。

 

 

2020年4月28日第一スタジオの取り壊し工事が終了したとの報道がされました。

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建物はなくなってしまいましたが 、建築士としてこの殺人事件を教訓としなければなりません。

そこで大雑把ですが私見を述べさせていただきました。

  

 ① 第一スタジオに起こった異変

 

年号が変わったばかりの令和元年(2019年)7月18日昼頃。

京都アニメーション第一スタジオに突如、男が侵入しガソリンが入ったバケツを1階にばら撒いて火をつけました。

 

 

これくらいで事件の仔細はさておき、私が気にかかるのがガソリンが撒かれた際の火の速さ

 

 

京都大学防災研究所の見解では、出火から5秒で煙が3階に到達、15秒で摂氏100度を超える煙が3階に充満し、30秒で2階から上の空間のほとんどが煙で満たされた』とのこと。

 

 

30秒で2階から上が煙で充満される状況というのは想像を絶する光景かと思います。これが何の前触れなく行われたのです。

 

 

  ② 当時の第一スタジオの様子

 

犯行当時、第一スタジオには『消火器』と『非常警報装置』のみの設備しかありませんでした。実質、消火設備としては消火器のみです。

 

加えて、第一スタジオ内には『螺旋階段』が設けられており、天井には煙が螺旋階段を伝って上階に向かわないように、高さ50cmの防煙垂れ壁が設けられていたようです。

  

一見、消火設備や防煙設備があるのに此処まで大惨事になるものかと疑問にもなるのですが、逆に考えるとこれらの設備を無効にする程、火の勢いは大きかったと考えられるでしょう。

 

 

第一スタジオには紙の資料が多く揃えられており、『紙を媒介にして火災が拡大した』とも考えられているとのこと。

 

あっという間に火元である1階全体に延焼してしまったため、社員は上階への非難を余儀なくされたと考えられます。

 

 

 

  消火・防煙設備は効果を発揮しうる環境だったか

 

「設備を無効にする程、火の勢いは大きかった」と前述しましたが、そこで消火器・防煙設備がもつメリットデメリットを見てみましょう。

 

 

1.消火器

 

 消火器を見たことが無いという方は滅多にないでしょう。それほどまでに消火設備としてメジャーな設備です。

 

 

それもそのはず、消防法では消火器の設置基準を「不特定多数の人間が使用する建物においては階毎に20m以内に設置しなくてはならない」と定めております。

 

 

解釈は所轄によりますが、建物内で火事があった場合、あらゆる場所から20m以内の歩行距離で消火器置き場に到達することが出来るように定めており、これによって火災の初期段階で消火活動を行えるということです。

 

 

消火器の種類も多種多様で、それぞれの原因で起こる火災に対応できるようになっております。

 

 

一方で、消火器は人間の手で使用しなくてはならないという難点があります。

 

今回の事件のように「延焼速度が速く上階への非難を余儀なくされたこと」という状況で、「迅速に消火器置き場に移動」して「安全栓を抜いて火元から3m程度離れて噴射する」という工程を本当に踏める人間がどれだけいるでしょうか。

 

つまり消火器による消火活動は、使用者の防災意識に依存して初めて有効な消火方法といえるのではないでしょうか。

 

また、消火器は「障害物のない水平方向に火元がある場合」想定している場合が多く、上階への避難を行った後に下階の消火活動を行えなかったこと。

「京アニ」という特殊なスタジオでは、積み重ねられた什器や資料が障害物になってしまうのではないかと推察します。

 

 

金額は3,000~20,000円とそこまで高価ではありませんが、消火器があるからといって安心とも言い難いといった感じです。

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 2.防煙設備

  

防煙設備は、一般的には防煙垂れ壁といわれる設備です。

 

一体なにかというと、火災により上昇気流が生まれた室内では煙が天井に充満して上階へと昇っていきます。

 

 

室内に残された人は階段を使って上階に避難するわけですが、そこで上階に煙の流入を防ぐために階段の天井に垂れ壁を設けます。その設備が防煙垂れ壁と言われるものです。

 

 

建築基準法ではこれらの設備を階段室に設けるよう定めており、ある一定規模以上の建物には必ずあるといってよいでしょう。

 

 

電気の配線工事なども不要で、比較的安価で取り付けられるので魅力的ではあるのです。が、そもそも防煙垂れ壁で区切られたエリア内に火が回ったら簡単に上階に煙が昇ります。

つまり、燃えた資料が螺旋階段近くにもあった場合、防煙垂れ壁が想定される機能を発揮できなかったとみることも出来そうです。

 

 

  

 ④ 私見:現行法規では第一スタジオの火の拡大を食い止められない

 

急な話ですが、

建物は、新築や増築、改築等も含めて一定規模と用途によっては、『建築基準法の適合を確認する審査』の手続きが発生します。

 

一般には『確認申請』と呼ばれる手続きですが、この手続きには『計画される建物の用途』を定める必要がある訳です。

 

 

何故そんな話をするのかというと、この『用途』こそが消火設備や警報設備を適切に設置するうえでの基準になるのです。

 

 

簡単な例でいうと「一軒屋」と「デパート」のどちらにも火災が起こった際、より多くの人命が失われる可能性があるのはどちらでしょうか?

 

 

考えるまでもなく、デパートかと思われます。

デパートは、1フロア当たりの面積が広く、屋外への避難に時間がかかります。場所によっては地下がありますね。

このように建物は用途に合わせて、被害の拡大を防ぐ設備の規模・種類が定められているのです。

 

 

一方、"第一スタジオ"は『事務所』という用途に区分されています。

しかし、"第一スタジオ"の事件当時の様子は私たちが想像する事務所とは、少し違った様子だったことでしょう。

アニメ制作会社ということもあり、紙媒体の資料が繁雑におかれていたのではないでしょうか。

 

 

これでは火災を防ぐことはできません。建築基準法は居住者の使い方まで定めることはできません。

 

居住者がどういう風に使用するのかを予言なんて出来ないし、ましてや無限に『用途』を増やすことも現実的ではありません。

 

以上の事から、"第一スタジオ"は事務所という用途を選ばざるを得なかった。そしてその事務所用途に合わせた設備を設置した結果があの大参事。

 

 

  • 余談

 

"第一スタジオ"にスプリンクラーがあれば一人でも多く救えたのでしょうか。

 

 

所詮結果論ですが、どうすれば火災の拡大を防ぐことができたのかを考えることは決して無駄にはならないと思います。

 

 

建物は取り壊されますが亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。

 

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以上です。

ありがとうございました。